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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)962号 判決

被告人

橫山恒治

主文

本件控訴を棄却する。

理由

前略

論旨第一点について。

所論は原審の裁判官が本件裁判に関與したことについて、刑事訴訟法上何等違法の存在を主張するものではないとしながら、刑事訴訟法の精神に鑑みるときは右は許さるべきことでないと論ずるものである。

惟うに所論は刑事訴訟法に関し独自の解釈を試みこれが見解を披するものに他ならないというべく採用するに由ない。即ち原判決には所論の違法はないのであるから論旨は理由がない。

以下省略

控訴趣意書

被告人 橫山恒治

控訴の趣意

第一点 本件被告事件の共犯者の一人とせられて居る河野秀男に対しては本件と同一の事件及外三件の被告事件に付曩に津地方裁判所四日市支部に起訴せられ第一回(昭和廿四年三月十七日)

第二回(同年四月十六日)の公制を経て第二回目の公判期日に於て同人に対し懲役三年に処し五年間その刑の執行を猶予する旨の判決があり、その判決に於て本件と同一事業に付ては本件被告人橫山を共犯者の一人と認定せられて居ること並に河野秀男の審理判決に関與せられた裁判官と本件の審理判決に関與せられた裁判官とは同一人なることは檢察官が証拠として提出の河野秀男に対する別紙窃盗被告事件の第一、二回の公判調書並に判決書に徴し極て明瞭である即ち前後同一の裁判官が関與せられて居り而も当該裁判官は本件の審理前既に本件被告人を本件被告事件の共犯者なりと河野の審理の結果その判決に於て認定せられて居るのでありこの認定は勿論証拠により確信の程度に達して居るものである、從つて本件の審理並に判決に係る確信的予断の所持者と認めらるゝ裁判官によつて行はれたるものであつて若しかゝる審理裁判を違法視し得ないとするならば刑訴法第二五六條六項の設置により予断を排し憲法の所謂公平なる裁判(憲法第三十七條一項)を期待実現せしめんとする憲法及刑訴法の精神は全く沒却せらるゝに至るのである、或はかゝる場合は裁判官が事件について刑訴法第二六六條第二号の決定略式命令前審の裁判、同第三九八條乃至第四〇〇條四一二條若くは四一三條の規定により差戻又は移送された場合に於ける原判決又は是等の裁判の基礎となつた取調に関與したときに該当しないのであるから之を違法視すべきではない若しかゝる場合迄も違法とするならばその審理裁判に多数の裁判官を煩し或はその手続上煩雜を增すに至り裁判上一大支障を來たすといふ見解が出るかも判らないのであるが予断形成の弊害といふ関係から観る時は彼此軽重なきのみならず時には本件のような場合の方が寧ろその弊害が大きい場合が存するのである、弁護人は素よりかゝる場合に於ける違法の存在を主張するものではないのであるが本件のような場合を默過する結果は事案の審理に臨むには全く白紙的心理状態を期待せんとする法の精神は蹂躙せられ起訴状にそれ以外の書類を添付してはならないといふ禁止の違反よりは予断形成に於て遙にその弊害の大なるものあり裁判官の数の不足とか手続の煩雜の增嵩といふが如き経費問題を以て云々すべきではないのでよつて人権擁護の完壁を期せんとする見地から強くその違法を指摘したいのである。

而してかゝる確信的予断がその審理裁判上に重大なる影響をもたらすといふことは当然自明のことであつて特に説明を要しないところであろう原判決は破棄を免れないものと信ずる。

昭和二十四年九月二十六日

右弁護人

弁護士 伊藤嘉信

名古屋高等裁判所刑事第四部 御中

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